青春の溺死体。

好きな人の脳内は覗きたい。ここはいずれ私の脳内になる場所。

ビニール袋

 

 

めちゃ好きだった先生がいる

 

 

向こうにとってはバイトなんだろうけど、辞めると聞いて、5200文字の手紙を書いた。

 

 

 

読む前に燃やしてください、から始まり自分の好きだったバンドの歌詞を引用して終わった。

 

 

 

スマホに下書きしていたけれど文字数の関係で手書きを諦めて、A5の2段組7枚を印刷した。封筒には封蝋をして、この世の恐怖を集めた紙切れが爆誕した。

 

 

 

 

 

 

 

返事は次の週に別の人から渡された。

 

 

 

 

「僕の好きなアーティストさんにさいあくななちゃんという方がいます。6月に東京の岡本太郎記念館で展示をします。」

 

 

 

 

3枚目の裏にTwitterの垢名を2つも書いたけど気付いた素振りはなくて、ちゃんと燃やしたような素振りと火が綺麗だったようなそんな旨が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

綺麗な男の子だった。

まっさらで個の無い感じ。

 

 

 

 

 

別れ際に好きな作家だったり花言葉だったりを教えてくるやつは総じて皆クソ野郎だと、僕はこの時に知った。

 

だからまたいつか好きなホモサピが出来たら、憎悪と愛と優しさを持って好きな作家やら歌やらを笑顔で教えてやるんだ。

ちゃんと僕のために絶望してくれよな。

 

 

 

 

 

結局、その展示には行くことにした。

まっさらな君が、何を持ってあの感情が剥き出しな作品を好きなのか、分からなかったから。

 

トークイベントにも申し込んだし本も買った。

 

 

 

 

 

 

それでも君だけは理解できなかった。

 

 

 

帰り際に作家さんにこのことを少しだけ話したけど、泣いてしまって上手く話せなかった。

 

 

 

 

絵は好きな感じで、君も好きだけど、

あの絵が好きな君だけは、想像も理解も出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り、GoogleMapを見ながら帰るのは卑怯だと思ったから適当に大通りを歩いた。

目に付いたコンビニに入った。

 

 

 

 

仮にも都会とは思えない寂れたコンビニで、

店員の留学生らしきお姉さんは一言も喋らないし、

品数もなんだか少ないような気がする。

 

 

 

 

 

 

僕はコーヒーが飲めないけれど、君と話している時にその唇からコーヒーの匂いがするのは知っていた。

 

 

 

原材料名の糖の文字を確認して缶コーヒーをひとつだけ買った。

そう言えば小学生の頃、塾に行く前に飲んでいたものと同じものだ。結局クソマズくて2~3回で辞めてしまったけれど。

 

そんなことを思い出して、やっぱり今でもクソマズいんだろうなと思いながら缶を開けた。

 

 

 

 

最悪なことに、思ったより甘さが勝っていて、なんだか美味しさを少しだけ理解出来ているような気がしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

成長してしまったことに絶望した。

 

 

 

 

 

 

 

 

君を亡くして僕は生き延びてしまったよ。

 

 

 

 

 

 

呪いかもしれない。

推量よりは断定が正しい文脈の中で、

君が好きだという作家のフォロワーの中で、

君の断片を思い出しながら生きなきゃ。

 

 

 

 

生きるよ。

でも絵を描いたり文字を書いたり写真を撮ったりする僕の人格は、いつも去り際の君のように酷く冷徹でありたいと思ったよ。

 

 

君の美しさは罪でした。

 

 

長い人生の中の片隅に存在するだけだった君を気に止めてしまったのは、きっと僕への罰でしかなくて、美しくはないなぁ。君と違ってさ。